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参加者プロフィール

参加者1

帝人株式会社

中川 亮さん

参加者2

ウェルリンク株式会社

川上 美幸さん

参加者3

SWCC株式会社

小嵐 隆史さん

参加者4

S‌M‌B‌C日興証券株式会社

福島 沙織さん

参加者5

中央大学ビジネススクール

宮永 雅好 教授

日本の社会やビジネスにおいて、ファイナンスの知見は、非常に遅れているのが現状です。そもそも日本では、表立ってお金の話をすることはタブー視されてきた傾向があります。しかし、経済活動の成果は最終的には金銭的価値によって測られます。また昨今では、同意なき買収(敵対的買収)やアクティビストからの株主価値向上の要求など、上場企業にとってファイナンスの理論や知見をもって経営に望まなければ解決できない課題も増えています。そこで、日本企業がコーポレートファイナンスの知見を使ってどのように経営にあたるべきか、そのために国の制度やビジネス慣習はどのように変わっていくべきかなどについて議論しました。

学生の問題意識をファイナンスの観点から見える化

宮永

まず、CBSで勉強しようと思ったきっかけを教えてください。

福島

私は新卒で証券会社に入社して12年が経ちました。現在は環境省に出向し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)に代表される気候変動や自然資本に関するリスクや機会、対応を開示するための分析の支援などを行っています。証券会社時代は、地域金融機関向けに投資商品の紹介や各銀行の体力やリスク許容度に応じた運用を提案していました。しかし、こうしたサービスや提案だけで本当にいいのかなとずっと感じていて、投資判断の裏付けとなる理論などをきちんと理解して提案することが必要ではと考え、そうした勉強ができる場所を探していました。CBSは、平日はオンラインで受講できるので、仕事と両立できると考えて入学を決めました。

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中川

私はもともと、世の中にないビジネスや新しい商品を生み出したいという思いから、新卒で電機メーカーに入社しました。商品企画やマーケティングなどを経験する中で、新しい事業開発をするなら関係する学問や理論を体系的に学ぶ必要があると常々感じていました。その後、歴史のある素材メーカーに転職し、1年前からヘルスケア業界での新規事業を開発する部署に異動したのをきっかけに、ビジネススクールで学び直したいと思った次第です。

川上

私は現在、EAP(従業員支援プログラム)業界の企業で財務部門の仕事をしています。2020年に管理職に抜擢いただいてからは、難易度の高い業務や施策の実行にあたり、上司や専門家のサポートを得ながら、熱意と根性で対応してきたというのが正直なところです。ただ、そうした属人的な対応には限界があると感じ、ファイナンスを軸に経営に関する学問を網羅的にしっかり学びたいと考え、まずは単科生としてCBSの門を叩きました。

小嵐

私は、2024年の3月にCBSを卒業したOBですが、以前に務めていた会社で、上役だったファイナンスの責任者を見て、自分が将来なりたいCFO(最高財務責任者)の姿ではないなと感じていました。その後、日産自動車系の部品会社に転職したのですが、入社した段階で会社がかなり危機的な状況で、自分の知見をもう少し高めて会社に寄与できないだろうかと考えたのが、CBSへの入学のきっかけです。

宮永

将来はCFOになりたいという希望があったのですか。

小嵐

そうですね。ただ、仕事の現場では会計やファイナンスしか学ばなかったので、もう少し視野を高めるために経営戦略を学びたいと思って入学しました。ただ、色々学ぶうちにファイナンスの視点から戦略へアプローチする方が自分には合っていると感じて、ゼミはファイナンス分野を選択しました。

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宮永

戦略は企業によって異なるので、いわゆる戦略論を学んでも実務に当てはめるのが難しいんですよね。例えば、福島さんの地域金融機関の経営に役立つ運用のお手伝いと、中川さんの医療系の新規事業開発とでは戦略の立て方や中身は全然違います。だから同じ戦略論では語れないんです。その点、ファイナンスは「調達と運用」をいかに効率的に行うか、という定式があるから明快です。皆さん、ファイナンスの授業を受けてみていかがでしたか?

中川

私は「コーポレートファイナンスと企業戦略」が一番印象に残っています。新規事業の部署でいろんなプロジェクトに携わるようになって、その企業の価値をどのように評価するか、ということにちょうど取り組んでいる時だったので、まさに実践と勉強がクロスする学びでした。

川上

後半で学んだ企業価値の算定はすごく重要ですが、会社ですぐに生かすことは難しいなと思いました。一方で、割引現在価値や投資の判断などは、学んですぐ実務に役立てることができました。特に投資判断の意思決定では、理論的に説明すると説得力が違うと実感しました。

宮永

小嵐さんは今まさにCFO的な立場ですが、CBSで勉強したことは役に立っていますか。

小嵐

CBSで得た知識がなかったら、役員とのやりとりもなかなかついていけてなかったですね。例えば、各事業のROIC(投下資本利益率)がどれくらいか、WACC(加重平均資本コスト)に対してどのくらいのスプレッドなのか。またそれぞれの事業の将来性はどうなのかとか、ROICにおいては利益が多いのか、それとも投下資本が少ないのか、といったことを分析しなければならないので、大いに役に立ちました。さらに学んだ知識を使って事業の戦略に反映していくとなると、もう一段、難易度が高くなっていくのかなと感じています。

宮永

小嵐さんの立場だったら、自分たちの事業の適正な経済的価値をちゃんと出せると思いますが、そのあたりは結構重要ですよね。授業でもお話ししましたが、大谷とメッシと山本の中で誰が本当に給料が高いのかファイナンス理論で計算すると、メッシ100に対して大谷が60弱、山本が40弱ぐらいになってしまう。1年あたりの価値に直すと大谷より山本の方が多くなる。野球チームの将来のビジネスリスクを考えると、割引率はリスクフリーレートじゃなくて10%程度でみるなら、大谷選手の契約額の価値はもっと下がってしまいます。

小嵐

あの話は衝撃的でしたね。アメリカの企業と契約する際には、契約条件を決めるときに本当に注意しないと騙されてしまいそうですね。

コングロマリットディスカウントを生むのはなぜか
~日本独特の“甘えの構造”〜

宮永

最近、上場企業の経営においてPBR(株価純資産倍率)問題やアクティビストが話題になっていますが、それについて意見を聞きたいと思います。中川さんの勤務先は製造業ですが、PBRはどれくらいですか?

中川

残念ながらあまり高くないですね。1倍以下が続いており、コングロマリット・ディスカウントなのかもしれません。事業を多角化しても、どの事業を伸ばしていくか明確にしないと企業価値がついてこないですよね。そうした認識が社内でも高まってきていて、事業ポートフォリオの見直しなどが議論されるようになってきました。

宮永

複数の事業を持つコングロマリット経営では、例えば4つの事業がそれぞれ10の価値があって、それをすべて合わせると40の価値があるはずなのに、市場では30になってしまう。本来は、異なる事業でリスクを打ち消し合うから、価値は40かそれ以上になるというのが投資のポートフォリオ理論です。ところが、実際はそうはならない。なぜこのコングロマリット・ディスカウントは起きると思いますか。

小嵐

複雑な経営に対して、きちんとコントロールしていくシステムに難しさがあるからなのではと思います。例えば、川上さんの会社の事業と中川さんの会社の事業が1つになった時に、同じ経営の指標では測れないですよね。

中川

前職の電機メーカーでは、それで分社化したんですよね。弊社の場合、ヘルスケア分野と、樹脂などの素材分野などでは、全く事業領域が違います。ところが、それぞれの事業領域で、競争力強化のための資源投下が十分にできておらず、結果的に各業界の中で優位性を保てていないということが、評価につながらない一番の原因じゃないかと思っています。ちなみに、前の電機メーカーは、私が辞めた頃からV時回復して、過去最高益を叩き出してます。

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宮永

様々な事業を一つの組織で経営している総合商社や、いろんな会社を買っている投資ファンドなどでは、コングロマリット・ディスカウントはあまり生じていませんね。(尤も総合商社はバフェット効果があったかもしれませんが。)本来は、できるだけ強い領域に特化すれば、失敗が減り、専門性やその業界内での地位も上がる。そうしたちゃんとした経営をしていれば、コングロマリット経営はリスクヘッジになるはずなんです。ところが多くの事業会社の場合、一つの事業が悪くても顧客がいるから切れないし、止められない。他の事業で儲かっていれば何とかなる、というグループの中で甘えの構造になってしまっているのが、ディスカウントが起きる一番の理由です。

福島

日本企業独特の終身雇用とか、ご縁を大切にする文化とつながりますね。

宮永

だから思い切ったことができないんですよ。PBRの問題で言うと、配当や自社株買いのほかに、事業ポートフォリオの入れ替えや、強い事業への特化、M&Aなど、アクティビストはファイナンスの理論で色々と提案してきます。それにきちんと対応しないと、代表取締役の選任に「否」という議決権行使をしてくる。企業にとっては怖いですよね。

小嵐

日本では自社の事業を売ったり買ったりするM&Aのカルチャーがずっとなかったので、低収益事業が企業価値を棄損していることに目を向けなかったり、儲かっている事業の無形資産も適正に評価されていなかったり、自社の経営資産の評価ができていないことも、PBRが低い1つの要因かもしれませんね。

資産運用がファイナンスへの理解を深めるカギ

宮永

ファイナンス分野には、インベストメントマネジメントという研究領域があります。基本は、債券投資や株式投資をするのはどうしたらいいかという学問ですね。ファイナンスは、インベストメントと密接に結びついていて、ファイナンスをよく理解するには、投資の世界を勉強しなくてはならない。例えば、保険会社はALM(アセット&ライアビリティマネジメント)を重要視していますが、どのような資産で運用するのか、リスク分散をするのか、ということはインベストメントマネジメントの中で勉強します。ところが、実は日本ではこの分野の研究があまり進んでこなかったんです。資産運用に関しては、日本は後進国なんです。皆さんは、資産運用はどうしていますか。

小嵐

私は現金、株式、債券が3分の1ずつくらいです。

川上

私はNISAの枠を利用して投資をしています。また確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の制度が見直される予定ですが、改正された際には活用してみようと思っています。

中川

私は半分現金、半分は株式の投資信託です。

宮永

今のマーケットは非常にホットな状態ですが、資産運用は社会情勢やライフステージを考えながら変えていく必要があります。最近は個人の投資へのシフトが進んできていますが、どんな資産運用を行うべきだと考えますか。

福島

そうですね、投資に関してはいまだに怖いと感じる人もいるので、人によって投資への考え方や許容度にはかなり差があると思います。基本として、リスクを抑える分散投資と時間分散を知ってもらうことが大事ですね。弊社でも行っていますが、金融経済教育は重要だと思います。

川上

先生が授業で日本のファイナンス・リテラシーの低さを指摘されていましたが、私も全く同感です。社内で企業型DCを導入した際、従業員への個別説明を行ったのですが、同じような年代やライフステージであっても、金融リテラシーや資産運用に対する考え方に大きな差があることに驚きました。資産形成の基本として、まず生活防衛資金を確保した上で、リスク分散を徹底しながら、少額からでも投資や資産運用を始めることが重要だと考えています。

小嵐

分散をちゃんとすれば、株式ポートフォリオのベータ値は1に近づき、市場の動きと同等に動く。だから、個人の運用はベータ値が1になるように分散して投資するのがいいと思います。投資信託の活用も一案ですが、投資信託に投資すると、投資先企業が何をやっているかとか、どこの国に投資されているのかがよくわからない。自分がファンになりそうないい会社に投資することで、金融がより身近に感じられますし、株式を通じて経営にも参加できるので、そういう視点で投資をしてみると面白くなるんじゃないでしょうか。

中川

私はこの分野に疎いので、AIなどテクノロジーの力をもっと活用できればいいなと思いますね。

宮永

そうですね。資産運用にテクノロジーを活用するのは、それこそ1980年代頃にはBarra株式モデルなどが流行ったことがありましたが、最近ではAIの活用も話題になっていますね。対象資産の評価にどのようなモデルを使うのか、またマーケット心理をどのように分析するのかがポイントになると思います。

CBSで何を学び実践していくべきか

宮永

最後に、これからCBSで学ぼうとしている人にアドバイスをお願いします。

小嵐

CBSに入る前に、少し会計とか金融を勉強しておいた方がいいかと思います。まったくファイナンスの知識を持たずに授業を受けて、大変な思いをしていた後輩もいましたので。マーケティングや戦略と違い、あまり馴染みがない人も多いんですよね。

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宮永

会計関連は、やっていない人は全くわからないですよね。そういう意味では、稲盛和夫さんの『実学』という本がオススメです。入学前に読んでおくといいと思います。

福島

昨今、企業や組織には、市場や社会に対する説明責任が問われる時代になっています。証券会社にいた時も、行政に所属している今も思うのは、企業を支援する立場としてファイナンスに長けた人材が求められるということです。ステークホルダーは違っても、限られた資本や財源でどう価値を生み出していくのかという点は同じなんですね。それを語る時に、ファイナンスの知識を得た上で、数字で説明できることが非常に役立つのではないでしょうか。

宮永

例えば地域金融機関のTCFDやTNFDの開示にしても、いくら投入してどれだけの効果があるのかを数字で表さないと、実行するかどうか判断できませんよね。

福島

そうなんです。最終的にビジネスや財務情報にどう結びつくかというストーリーを示すために、やはりファイナンスの視点が必要になってくるのかなと思います。

宮永

結局、戦略とファイナンスは結びついてるんですよね。戦略を立てる上で、どれくらいお金が必要なのか、どれくらい儲かるのか、という費用対効果を考えるためにも、ファイナンスは不可欠なんです。中川さんはどうですか?

中川

私は入学するまで、まったくファイナンスはわからなかったんです。今すごく感じているのは、キャリアを重ねるとファイナンスの話は切っても切れなくなってくる。新たな事業を作る上で、人も物も金も情報もちゃんとマネジメントすることは欠かせないと思うので、キャリア形成にはファイナンスを勉強することが重要だと痛感しています。私みたいに後悔しないように、少しでも勉強してから入学することをオススメします!

宮永

大丈夫ですよ。入学してからの基礎の自習講座も作りましたら、2年間かけて経営戦略にファイナンスの知識を使えるよう、学んでもらえると思います。川上さんは、これからどのように勉強していきたいですか。

川上

今は、単科生でお試しの勉強をしていますが、近いうちに本科生になって、企業経営のために必要な学問や実務の勉強をして、会社の発展に貢献していきたいと思っています。

皆さん、今日はどうもありがとうございました。

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中央大学ビジネススクール教授

宮永 雅好 MIYANAGA Masayoshi

[専門分野] 企業会計、財務分析、コーポレートファイナンス、M&A、企業情報開示、ESG
[担当科目] コーポレートファイナンスと企業戦略
[略歴] 博士(学術)(早稲田大学)/日本債券信用銀行(現 ㈱あおぞら銀行)、シュローダー投信投資顧問取締役運用部長、株式会社ファルコン・コンサルティング代表取締役、國學院大學非常勤講師、東京理科大学経営学研究科教授などを経て、2022年4月より現職。
金 雲鎬 教授
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